洗練された大人の男を演出する欧州映画サントラの世界
lifestyleライフスタイル2019.06.20
ライフスタイル2019.06.20
気になる相手とドライブデート…、そんな機会が訪れた時は、ムードに気を遣いたいもの。チョイスに悩むのは、カーステレオのBGMだ。
青臭い歌詞を歌い上げるJ-POPは20代で卒業したいし、流行りの洋楽を追いかけているとキリがない。かといってギンギンのロックやクラシックでは、相手が押し黙ってしまうだろう。
「そうだ!ジャズなんかピッタリじゃないか」と考える人がいるかもしれないが、その世界はかなり奥深い。付け焼刃のチョイスでは、突っ込まれた時にボロが出やすいのだ。では、一体どうするべきか…。
そんな時におすすめなのが、60年代ヨーロッパ映画のサウンドトラックなのである。
今から50年以上も前の、ヨーロッパ映画のサントラがなぜおすすめなのか、その理由を紹介しよう。
そもそもジャズやボサノバ、そしてラテンミュージックなどの音楽はアメリカ大陸で生まれており、突き詰めると非常にディープな世界が広がっている。ヨーロッパ人はそれらの音楽を白人向けにソフィスティケイトし、耳触りの良い『イージーリスニング』として再生産したのだ。
この時代のヨーロッパ映画のサントラは、1990年代に「信じられないほどおしゃれ」と世界中で再評価され、新たな世代のファンを獲得した。このためいくつかの名作は、今もCDで容易に入手できる。
以下におすすめのCDと、著名な作曲家たちの情報を紹介していこう。
ロシュフォールの恋人たち リマスター完全版 CD(引用:Amazon)
ミシェル・ルグランは、フランスを代表する作曲家。数多くの名作映画の音楽を手掛けただけでなく、サラ・ヴォーンやリナ・ホーンなどジャズ歌手とのコラボアルバムも制作している。
彼の音楽の基本にあるのはジャズだが、驚くほど人懐こく躍動的なアレンジが特徴で、また信じられないほど美しくドラマティックなメロディを紡ぎ出す。彼の名は知らなくても彼が作曲し、電話の待ち受けメロにまで使われる『シェルブールの雨傘』の旋律に、聞き覚えがあるという人は多いだろう。
本作は基本的にミュージカル映画のサントラなので、すべての楽曲にヴォーカルが乗っている。華麗なアレンジのアップテンポなナンバーが多く、ドライブのBGMによく合うだろう(実際、本作のメインテーマが、日本の車のCMソングとして使用されたこともある)。
なお『ロシュフォールの恋人たち』は映画の方もDVD化されている。若きカトリーヌ・ドヌーヴが実姉のフランソワーズ・ドルレアックと共に歌い踊る姿(歌は吹き替えだが)を楽しんでみるのも良いだろう。
女性上位時代 【DSDリマスタリング】(引用:Amazon)
アルマンド・トロヴァヨーリは『黄金の七人』など、おしゃれでヒップなイタリア映画のサウンドトラックを、数多く手掛けたことで知られる作曲家。ローマの音楽学校で正式にピアノと作曲を学んだ後、映画業界入りを果たしている。
1960年代イタリア映画のサントラ名曲を集めたオムニバスCDは、1990年代に数多く発売されたのだが、その中にはトロヴァヨーリの楽曲が、必ずと言っていいほど収録されていたものだ。
本作には非常にロマンティックなタッチのテーマ曲のみが収録されており、さまざまなアレンジによって表情を変えるさまが楽しめる。ワルツの3拍子が続くCDの前半は特に緩やかなので、ドライブの先にあるシーンで良い仕事をしてくれるかも!
なお『女性上位時代』は映画の方もDVD化されているので、ぜひ鑑賞をおススメする。若き未亡人のセックスをめぐる冒険を描いた内容もおもしろいが、悶絶するほどおしゃれな舞台美術(スタイリングやインテリア)は必見だ。
死は二回訪れる(紙ジャケット仕様) CD(引用:Amazon)
フィレンツェ出身のピエロ・ウミリアーニは、10代の頃から作曲家として活動していた。1950年代には、本ページの上部で紹介したアルマンド・トロヴァヨーリに師事し、映画音楽のアレンジを学んだという。
本作(映画)は日本で一度も紹介されたことがなく、公開やソフト化の経歴もないため内容は定かでないのだが、タイトルからしてサスペンス映画のようだ。しかしウミリアーニの手掛けたサントラは軽快なジャズあり、親密な雰囲気なボサノバあり、渋いヴォーカル曲ありとバラエティに富んでおり、飽きさせない。
中でも最も人気が高いのは、高速のボサノバアレンジに男女のスキャットが絡む『BOB AND HELEN』。魅惑のメロディを一度覚えたら、鼻歌が止まらなくなること必至だ。
ピエロ・ウミリアーニと人気を二分するもうひとりの「ピエロ」が、このピッチオーニ。ジャズやボサノバなどを洗練させた、正統派ラウンジミュージックを得意としている。アルマンド・トロヴァヨーリと並び、60年代イタリア映画音楽を象徴する作曲家と言えるだろう。
本作(映画)も日本公開の履歴はなく、内容は不明だが、どうやらロンドンに訪れたイタリア人男性が引き起こすドタバタを描いたコメディ映画のようだ。
製作は1965年であり、舞台がスウィンギング真っ盛りのロンドンということもあって、ピッチオーニの音楽も元気いっぱい。中にはロック調のアレンジが弾ける楽曲もある。しかし基調となっているのはやはり、軽く洒脱にまとめられたジャズである。
いかがだろうか?本ページでは便宜上、作曲家名義のサントラCDを紹介したが、さらにおいしいところ取りを推し進めた「イタリアンシネマ・コンピレーション」CDも数多く存在している。
中でもおすすめなのは、本国イタリアでVOL.10まで登場した『Easy Tempo』シリーズで、アマゾンなどの通販サイトではまだ入手可能。「60年代ヨーロッパ映画のサントラの魅力にはまった」という向きは、ぜひそちらもチェックしてみよう。
TEXT by 西本不律