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黒澤映画に学ぶ大人の男のダンディズム

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ライフスタイル2019.01.30

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ビジネスマンにもおすすめ!大人の男の魅力に満ち溢れる黒澤映画の世界

2018年は、是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ映画祭の最高賞を受賞し、大きな話題となった。またジブリ映画も世界中で上映され、大変な人気を博している。

しかし日本の映画監督として最も知名度が高く、長きに渡り世界中で愛され続けている作品を世に送り出したのは、黒澤明だ。

その作品群はクラシックとして絶対的な評価を確立しているため、近年の日本では「敷居が高い」と敬遠されているように見える。また「時代劇はどうも苦手で…」と、鑑賞を躊躇している人も多いだろう。

しかし黒澤明は、形式と様式に支配された時代劇を嫌い、登場人物たちを徹底的にリアルに描く『時代劇革命』を推し進めた監督だ。それゆえ彼の作品は世界中で評価されたのだし、現代を生きる者にも充分共鳴可能な驚きと、感動を含んでもいる(もちろん時代劇だけでなく、現代劇も撮っている)。

また黒澤映画の中には、シニカルで油断のならない同性や、疑り深い女性たちをピタリと黙らせる『男の中の男』がいる。現代を生きるビジネスマンにとって、自己啓発書より数倍役に立つ『生き方のヒント』が込められているとも言えよう。何より、監督の名作を字幕なしで楽しめるのは、日本人の特権なのである。

本ページでは特におすすめの作品を紹介しているので、「まだ黒澤映画を観たことがない」という人は、ぜひこの機会にチェックしてみて欲しい。

スカウトとコラボレーションで勝負に立ち向かう『七人の侍』

七人の侍

七人の侍 [Blu-ray](引用:Amazon)

あまりにも有名な黒澤監督の代表作。ベネチア映画祭の銀獅子賞を受賞し、国際的にも高く評価されている。

収穫物を奪う野武士の襲撃に怯える小さな村の村民は、とある侍に村の警護を懇願する。侍は七人の同志を集めたうえで戦略を練り、来るべき野武士の襲来へと備える。そして戦いの火蓋は切って落とされる…。

そんなあらすじの本作は、豪雨の中で繰り広げられるド迫力の戦闘シーンでクライマックスを迎える。しかし何よりも面白いのは、武士たちの泥臭いやり取りだ。

一番初めに村民の依頼を受け、のちにリーダーとなる侍(志村喬)は、有能な仲間を求め、町にスカウトへ出かける。その中で技術と個性、そして強い意志を持つ浪人を探し出し、共闘を持ちかけるのだ。

有能な個人が結束した時、そこには強力なチームが誕生する。本作で描かれる『コラボレーションの面白さと尊さ』は、現代のビジネスシーンにも充分あてはまるものだ。

また7対40という圧倒的な不利の中、リーダーが知恵と経験を総動員して立案した効果的な戦略が、見事功を奏する場面には興奮を禁じ得ない。チームの中でスタンドプレーに走るメンバーを諫めるのも、もちろんリーダーの役目である。

やがて訪れる傷だらけの勝利には「弱きを助け、強きを挫く者」に対する、監督の絶対的な支持が込められている。

『七人の侍』
■製作年:1954年
■上映時間:207分
■監督:黒澤明
■出演:志村喬、三船敏郎、加東大介、木村功、津島恵子

誰をも頼らぬ一匹狼が若者を導く『用心棒』、『椿三十郎』

用心棒

用心棒 [Blu-ray](引用:Amazon)

『用心棒』は、類まれなる剣豪でありながら、無頼漢としてさすらうニヒルな浪人の活躍を描いた秀作である。

侍の仕事とは本来、特定の要人の身辺警護だ。しかし三船敏郎演じる主人公・三十郎は、誰にも仕えぬ一匹狼。そんな彼が、二大勢力の衝突により一触即発の時を迎えた町を訪れ、覇権争いを繰り広げる当事者たちを鼻で嗤いながら翻弄していくさまが、痛快である。

『用心棒』は国内での大ヒットに留まらず、海外でも高い評価を得た。イタリアでは脚本を盗作した『荒野の用心棒』という西部劇が生まれたほどだ。その成功を受け、翌年に製作された続編が『椿三十郎』である。

椿三十郎

椿三十郎 [Blu-ray](引用:Amazon)

『用心棒』では、町を搔き回すだけ掻き回して去っていく三十郎の姿に、どこか刹那的な雰囲気が漂っていた。ところが続編において、三十郎はひょんなきっかけから若武者たちを指導する立場に祭り上げられるのだ。

若武者たちの中には、得体のしれない三十郎を師と仰ぐことに拒否反応を示す者も…。しかしその実力を思い知る度に、反発の声は小さくなっていく。またもともと無頼漢である三十郎は、自らの実力をひけらかすことに興味がなく、むしろ嫌々ながら、若武者たちの尻拭いに奔走する。そこには『カッコよすぎる上司』の、理想的な姿がある。

もし貴方が「部下がついてこない。どうまとめれば良いのか…」と悩んでいるなら、三十郎の奔放で、しかし根は善良な生き様から、少なからずヒントを得られるに違いない。

『用心棒』
■製作年:1961年
■上映時間:110分
■監督:黒澤明
■出演:三船敏郎、仲代達矢、山田五十鈴、司葉子


『椿三十郎』
■製作年:1962年
■上映時間:98分
■監督:黒澤明
■出演:三船敏郎、仲代達矢、加山雄三、団令子

悪意に足元を掬われた男の決断『天国と地獄』

天国と地獄

天国と地獄 [Blu-ray](引用:Amazon)

こちらは現代劇で、しかも重厚な推理サスペンス。

靴会社の常務となり、街を見下ろす高台に豪邸で生活していた主人公(三船敏郎)は、会社の株を買い占める金を用意し、さらなる権力を掌握する寸前だった。そんな時、最愛の息子を「誘拐した」との電話が入る。しかし犯人が誘拐したのは、実の息子ではなく、使用人の息子だった…。

本作は高度成長期を迎え顕著になりつつあった、格差社会の対立構造が生む犯罪を描いている。叩き上げの成功者を象徴する主人公は、保身と善行の狭間でギリギリの選択を迫られて苦悩。怒鳴り散らしたり、精一杯の誠意をもって自らの状況を説明したりと、大いに取り乱す。その姿には男の真剣な生き様が現れており、観る者の共感を呼び起こさずにはおかない。『美侍』世代の、格好のロールモデルとなってくれることはうけあいだ。

終盤には近年、スリラーの定番となった『犯罪者の異常心理描写』を先取りしている面白さもあり、娯楽映画としても超一級品。

『天国と地獄』
■製作年:1963年
■上映時間:143分
■監督:黒澤明
■出演:三船敏郎、仲代達矢、山崎努、香川京子

上記のように、黒澤明の映画は常に男性の登場人物を中心に展開し、誰にでも理解できる骨太なヒューマニズムを提示している。

しかし『男尊女卑』という批判に曝されることがないのは、三船敏郎を始めとする俳優が命を吹き込んだキャラクターがあまりにも魅力的で、また映画全体を大きな『父性』が包み込んでいるからだろう。

カッコいいオヤジを目指すなら、黒澤明の映画は必見である。

TEXT by 西本不律

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