IT企業の会社員が、業種違いのファイナンシャル・プランナーの資格に挑戦した理由
businessビジネス2018.07.04
ビジネス2018.07.04
突然だが、最近資格を取ったことはあるだろうか? 若手の頃、一日でも早く戦力になるために仕事に関する勉強や資格取得を必死にやっていた、という人は多いだろう。
しかし、ある程度キャリアを積み、業界知識も身に付いてくると現場での経験ばかり重要視してしまうことはないだろうか。 「資格を取得しても、経験がなければ役に立たない」と聞くこともあるが、資格を取得するまでに得た知識は決して無駄にはならないはずだ。
今回は、ある男性のが全くの業種違いの資格を取得したにも関わらず、その資格が仕事に活きたエピソードを紹介しよう。
記事に登場するのは、都内のIT企業に企画・マーケティング職として勤務している徳井さん(仮名)。 主に、WEB上のマーケティグ施策立案とサイト運用を手掛けている。 ベテラン社員として、上司は勿論、チームメンバーからの信用も厚い人物だ。
「毎日、仕事漬けでしたね。特筆した趣味もないので、家と職場の往復ばかりでした」
そう話す徳井さんは、言葉とは裏腹に笑顔であった。 仕事が楽しくて仕方がなかったのだろう。 そんな仕事中心の日々は、ある日を境に一変した。
突然、母が倒れたという知らせが届いたのだ。 母は元々体が弱く、体調を崩すことも多かったが、今回のように突然倒れるなどと言うことは今までに一度もなかった。
親戚の通夜で「人の死」を経験していても、不思議と「自分の親だけは絶対に死なない」という感覚を持ってはいないだろうか。 実家に帰れば温かく迎えてくれて、いつまでも一緒にいてくれる存在だと思ってはいないだろうか。
けれども、死は何の前触れもなくやってくるものだ。 母が緊急搬送されたことによって、徳井さんもその現実に気付かされたのだった。
幸い、母は体調を持ち直した。しかし、本当の闘いはここからだった。 仕事が終われば、母の介護をする生活が始まったのだ。
徳井さんにとっては、初めての介護である。 母とはいえ、介護をする上で気遣いは必要だろう。 介護に関する情報をネットや書籍、あらゆる手段で調べつくした。
仕事終わりは、母が暮らす家へと直行する。 入院させた方が母のためになると思ったのだが、母が無保険であるという事実が発覚したため、自宅での介護となったのだ。 振り返れば、慣れ親しんだ自宅にいる方が母にとって一番良い選択だったのかもしれない。
今まで「保険」というものを特別気にかけたことはなかったが、改めて保険仕組みについて考えてみると、その相互扶助の精神の素晴らしさに気付く。「一人は万人のために、万人は一人のために」という言葉通り、お互いを助け合うシステムは、まさに「人間の英知の結晶」と言われるにふさわしい在り方だ。
個人主義的な考えが増えてきた現代においても、やはり人間は他人との繋がりがあるからこそ生きてゆける生き物であると考えさせられる。 保険が持つ世界感に魅了された徳井さんは、さらに保険への理解を深めるために、なんとファイナンシャル・プランナーの資格を取得することを決意するまでに至った。
自他共に「勉強嫌い」と認める徳井さんが、試験合格のためにまず行ったのはファイナンシャル・プランナーの資格を持っている友人への相談だった。
ファイナンシャル・プランナーの資格は段階を踏んで、検定に合格する必要がある。 徳井さんが合格を目指している2級FP技能検定は、受験資格として3級を合格していることが必要であるため、資格合格のためには時間がかかる。 そのため、途中で勉強に飽きることがないよう、どんな参考書がおすすめなのか、友人に教えてもらった。
銀行員として相談窓口の第一線で働く友人曰く、不動産から資産運用、資金計画と多岐にわたる知識を、効率よく知識として定着させるためには参考書を1冊に絞ると良いらしい。
資格取得の勉強の場として選んだのは、通勤電車の中。 片道30分の間で購入した問題集を何度も解くのを、ひたすら続けた。
仕事に向かう時間帯はあまり人がいないため、確実に席に座れるという環境も幸いしたのだろう。 母が倒れてから約半年後、徳井さんはファイナンシャル・プランナーの試験に合格した。
インタビューの最後に、徳井さんは「FPの資格を取ったとはいえ、今の仕事は全くの業界違いですから。活かす機会なんてありませんよ」と言って、軽く笑い飛ばした。 しかし、どんなに畑違いの内容を学んだとしても、人生の中でマイナスになることはありえない。
事実、所属しているチームメンバーは不動産関係や損害保険事業に関する案件が回ってきた際は、必ず徳井さんに相談するという。有識者の意見を参考に、クライアントへ良質な提案をするためだ。関連業界のクライアントの話も、理解しやすいと徳井さんは話す。
私たちが今までに培ってきた知識や経験は、仕事に余すことなく活きてくる。 年を重ねても、常に「学ぶ」姿勢を持ち続けることが良い仕事に繋がっていくのだ。